インパクト投資
「インパクト投資」とは、経済的なリターンと並行して、測定可能な社会・環境のポジティブな変化を生み出すことを意図する投資を指します。SIIFICでは、「人と社会のシステム」に目を向け、「システムを再設計する手段」として資本を使うことと定義しています。本稿では、SIIFICにおけるインパクト投資の視点と独自アプローチについて概説します。
インパクト投資は大きく、投資判断前の予備段階、投資判断の段階(デューデリジェンスの実行段階)、投資後のIMMの段階に分けられます。投資および投資後のIMMのプロセス全体は、「インパクト・マネジメント・システム」として規定され、アプローチは「Disclosure statement」というレポートで開示されます。
#「インパクト・ファースト」と「ファイナンス・ファースト」
インパクト投資を語る際、「インパクト・ファースト」と「ファイナンス・ファースト」という2つの軸で投資方針を区別する考え方があります。
原則(OPIM:Operating Principles for Impact Management)や、Theory of Change(変化の理論)などのフレームワークを導入し、次のステージへ進もうとしています。
一方、「ファイナンス・ファースト」のインパクトVCは、「社会・環境的インパクトを生みつつも、同時に明確な財務リターンを狙う」投資を行います。そのため、このタイプのファンドでは、財務評価や「インパクト測定・管理(IMM:Impact Measurement & Management)」において一定の標準化を行い、運営コストを抑えて、一般の投資ファンドと同等のリターンを達成しようとする傾向があります。
SIIFICは、この2つの目的を同等に重視しており、インパクト投資を通じてシステムチェンジを企図しながら、ベンチャーキャピタルとして経済的リターンも得られる体系的なスキームで投資システムを持っています。目指すのは、「インパクト」という言葉が単なる理想やビジョンとして語られるのではなく、測定可能で実効性ある成果に裏打ちされる環境をつくることです。
#インパクトを測定・管理する
2016年にSIIFIC代表パートナーの梅田がエムスリー株式会社と組成した前号のシーズロケットファンドにおいて実績のある薬事コンサルタントと共同創業したクラスⅣ製品を開発する医療機器会社では、特許の取得から各種動物試験の実施、薬事申請を経て植え込み式の高度管理医療機器の開発に成功し、販売できる製品が複数あったにも関わらず、計画通りのM&Aができない状況にありました。また、大手企業との販売提携をしようにも、スタートアップには資金繰りにゆとりがなく、自社販売での初年度の売上は微々たるものであり、不平等な立場での交渉を強いられるケースが複数ありました。こうしたスタートアップの状況において、突破口となるのはインパクト評価だったのです。インパクト評価のアプローチを取り入れることにより、スタートアップに売上・利益以外の“数字”を与え、企業の存在価値、将来予想を数字でロジカルに説明できるようになりました。また、インパクト投資実務においては、「インパクト・マネジメント・システム」におけるシステム思考のプロセスを経ることで、インパクトを特定し、短期、中期、長期のアウトカムを測定可能かつ実効性のあるKPIとして捉え、継続的にモニタリングしていきます。SIIFICでは、これにより、「インパクトKPIが揃うまでは、インパクトを語れない」という常識を覆すことができると考えています。
#システムにアプローチする
SIIFICのインパクト投資の特徴のひとつは、システム思考を用いた投資アプローチです。「システム思考」とは、物事を部分ではなく、相互に関係する全体(システム)としてとらえる思考法で、出来事だけを見ず、それらを生み出しているパターン、構造、前提(メンタルモデル)に注目することで、深い理解と持続的な変化を可能とします。近年、実務家の間でシステム思考を投資判断に組み込む動きが具体化しており、インパクト投資が「測定・管理」から「システムチェンジ」へと進化する過程にあることを物語っています。また投資家は、従来の線形ロジックモデルを補う形で、より深い視座を得ることができるようになりつつあります。
SIIFICの投資アプローチにおいては、例えば線形ロジックモデルのような直線的な枠組みに安住せず、フィードバックループや制度的制約、人と環境の相互作用まで踏み込んで分析を行います。システム思考を導入することで、インパクト投資およびIMMプロセスが単なるビジネスKPIや数値評価にとどまらず、社会や事業の変化を因果関係の連鎖として構造的に捉えることができるようになります。

#人を動かすTheory of Change(ToC)
システム思考から導かれたシステムチェンジに向けたストーリーは、変化の理論(以下、ToC:Theory of Change)として定義されます。ToCとは、期待される変化がなぜ・どのように起きるかの全体像を可視化し、期待される変化と現在のギャップを説明するものを指します。組織や取り組みがどのように変化を生み出すかを計画して、その効果を評価し、関係者に変化のプロセスを伝えるためのツールであり、組織の活動に応じて更新され続ける“羅針盤”とも言えます。

SIIFICでは、システム思考に基づき、システムを構成する因果関係や、それらを生み出しているパターン、構造、前提(メンタルモデル)に注目し、フィードバックループや制度的制約、人と環境の相互作用まで踏み込んで分析することで、実効性のあるストーリー、つまり“人を動かす”ToCを紡ぎ出します。この“人を動かす”ToCこそが、IMMの根幹になっており、SIIFICの投資アプローチを特徴づける要素のひとつとなっています。
#共同学習のための青写真
IMMプロセスにおいて、投資活動や企業運営がどれだけ社会課題解決に貢献したかを評価し、その結果を示すために作成される「Impact Performance Report」というレポートがあります。SIIFICでは、このImpact Performance Reportを成果報告にとどめず、投資家・投資先・関係者が一緒に学ぶための、「共同学習のための青写真」として捉えています。これにより、ファンドと投資先の関係は“監視”から“共創”へと変わり、システムチェンジを実感できる関係性が生まれます。こうした実践によって、SIIFICは「成果を測るファンド」ではなく、 「システムに働きかけ、人と社会を動かすファンド」として、他のベンチャーキャピタルやインパクトファンドとは一線を画していると考えています。
SIIFICでは、「SIIFICウェルネスファンド」を通じて、ウェルネス領域におけるシステムチェンジを目指しています。ウェルネスおよびSIIFICウェルネスファンドに関する解説は関連キーワードを参照ください。