4つの投資テーマ
本稿では、「SIIFICウェルネスファンド」において、ファンドのスーパーゴールからぶれることなく投資を実践するために策定した「4つの投資テーマ」について概説します。
SIIFICウェルネスファンドは、目指すスーパーゴールを「ウェルネス・エクイティーの実現」としています。このスーパーゴールから投資戦略が外れないように、ファンド組成時に以下の4つの投資テーマを設定しています。
1. 安⼼できる医療のデフォルトスタンダードとなる得る製品、サービス(供給側の⾏動変容)
2. 前向きかつ多様な活動、ライフスタイルへの取り組みを促す製品、サービス(需要側の⾏動変容)
3. 独⽴したそれぞれの個⼈がゆるく繋がる製品、サービス
4. 地⽅にて雇⽤を創出し、いきいきと暮らせる環境を創出する可能性があるスタートアップ
この4つの投資テーマは、スーパーゴールの「レバレッジポイント」である「ウェルネス・リテラシーの向上」と「ソーシャル・キャピタルの充実」を軸に、この2つの観点で社会を見つめ直し、導き出したものです。

スーパーゴールおよびレバレッジポイントと4つの投資テーマの関係性
#4つの投資テーマに至る道のり
昭和、平成、令和と時代の流れを捉えて紐解いていく中で、ある視点が浮かび上がってきました。たとえば、昭和的な強固な組織や結合型のつながりは当時は社会を支えましたが、いまの多様化した社会では排他性や格差を拡大する要因となっています。このように昭和の時代にはうまく機能したソーシャル・キャピタルの仕組みが、平成を経て令和ではむしろ弊害を生んでいることに気づき、そこから「旧来とは逆のことをやることこそが次の時代の変化を生み出す」という考えに至りました。この視点のもと、議論を重ねながら項目を絞り込み、最終的に4つの投資テーマに辿り着きました。策定までの道のりは、正解を探すプロセスではなく、時代の文脈で何が行き詰まり、そこからどう逆に舵を切るかを見極めるプロセスでした。SIIFICウェルネスファンドでは、このように導き出された4つの投資テーマとの整合性を保ち、投資判断を行っています。
#「ウェルネス・リテラシーの向上」に関連する投資テーマ

スーパーゴールおよびレバレッジポイントと4つの投資テーマの関係性
高齢化が最も進む日本においては、「ウェルネス=健康」という概念そのものに社会的な変革が求められています。これまでのように寿命という身体的な健康に重きを置く社会から、活動・選択・ライフスタイルなどを前向きかつ主体的に取り組める、より包括的な健康状態へと意識を移していくことが必要です。すなわち、寿命という「量」から、よりよく生きるという「質」の重視へのシフトです。このような医療パラダイムからウェルネスパラダイムへの転換こそが、ウェルネス・エクイティーの実現において重要であると考えています。しかし、その変革を実現するためには、無数にある複雑な課題を解決しなければいけません。現状の課題を発見し、解決策を導き出し、その効果を可視化する。この3つのステップを、課題の複雑さが実行困難なものにしています。そこで、ウェルネスパラダイムへのシフトを推進するために、これらの複雑な課題を可視化し、ウェルネス・リテラシーの向上を実現する製品やサービスを開発・提供するスタートアップへの投資を行っています。
#「ソーシャル・キャピタルの充実」に関連する投資テーマ

スーパーゴールおよびレバレッジポイントと4つの投資テーマの関係性
寿命という身体的健康だけでなく、活動・選択・ライフスタイルなどを前向きかつ主体的に取り組める、包括的な健康状態が得られる社会に至るには、一人ひとりがウェルネスに取り組む過程において、多様な価値観の人々とゆるくつながり、社会的サポートを受け、豊かな心が育まれることが必要だと考えます。また、それは、社会全体の健康状態にも良い影響をもたらすことができます。医薬業界に留まらず、広くウェルネスに取り組む投資先を選定する際に参照するテーマです。
投資テーマの3として定義した「独立したそれぞれの個人がゆるく繋がる製品/サービス」は、結合型(ボンディング型)ではなく橋渡し型(ブリッジング型)のソーシャルキャピタルであることがポイントです。

ソーシャル・キャピタル(社会関係資本)とは(SIIF『ヘルスケア・ビジョンペーパー』P34より)
結合型ソーシャルキャピタル(同質な仲間や内部の強い紐帯)が強くなると、排他性や参加の壁ができてしまう危険性があります。一方で、橋渡し型は異なる背景を持つ人を、ゆるく、横断的に繋げるネットワークであり、信頼・情報共有・連携の潤滑油として機能します。この「ゆるいつながり」は、レバレッジポイントの引用元である『ヘルスケア・ビジョンペーパー』で掲げている「それぞれが自然に参加できる社会/ウェルネスの持続可能性」の実現に合致します。そのため、ゆるいつながりを投資判断におけるキーワードのひとつに掲げました。
投資テーマ4の「地方にて雇用を創出し、いきいきと暮らせる環境を創出する可能性があるスタートアップ」は、SIIFICウェルネスファンド独自のテーマです。例えば、東京一極集中から地方分散型への移行を促す好事例となるようなスタートアップが当てはまります。雇用の「量」ではなくその「質」を重視し、仕事のやりがい・賃金水準・スキルアップの機会を備えていることを必須条件としています。
SIIFICでは、「ゆるいつながり」と「地方での雇用」をキーワードに、産官学などの異なるセクターが協働して解決し、一体となってインパクトを創出する取組みを推進するスタートアップに投資します。