インパクト・マネジメント・システム
本稿では、インパクト投資における「インパクトの評価と管理(以下、IMM:Impact Measurement & Management)」のプロセス全体像を概観します。

インパクト投資は大きく、投資判断前の予備段階、投資判断の段階(デューデリジェンスの実行段階)、投資後のIMMの段階に分けられます。投資および投資後のIMMのプロセス全体は、「インパクト・マネジメント・システム」として規定され、アプローチは「Disclore statement」というレポートで開示されます。
以下、インパクト・マネジメント・システムにおける実施プロセスのうち、主だったものを説明します。
#プレデューデリジェンス
投資先候補のスタートアップから提出されたピッチ資料等をもとに、ファンドが掲げる投資テーマとの適合性等を精査し、より深いデューデリジェンスプロセスに進むかどうかを判断します。
#デューデリジェンス
デューデリジェンスは、大きく2つのプロセスに分けられます。ひとつは、従来のベンチャーキャピタルで行われる財務・ビジネス面での「VCデューデリジェンス」。もうひとつは、インパクト評価、つまり「インパクトデューデリジェンス」です。
SIIFICでは、VCデューデリジェンスにおいても、代表パートナーの梅田がこれまでの投資経験をもとに定義した独自の「シーズの定義」のフレームワークに基づき、アイデア・サイエンス・ニーズの観点で評価を実施しています。
SIIFICのインパクトデューデリジェンスでは、「システム思考」という独自アプローチにより現状分析を行います。システム思考とは、フィードバックループや制度的制約、人と環境の相互作用まで踏み込んで分析し、社会や事業の変化を因果関係の連鎖として構造的に捉える思考法を指します。ステークホルダー調査やさまざまな定量情報等を基に作成した「システム図」により、要素や相互の関係性が図示されます。
さらに、より詳細なインパクトおよびリスク評価のため、「5 Dimensions of Impact」というフレームワークによる分析を行います。これは、創出されるインパクトを多面的に分析するツールとして、多くのグローバルな投資家に活用されています。SIIFICでは、活動対象を国内外問わず設定していることから、グローバルスタンダードでのインパクト評価を行っています。
ステークホルダーとの議論を踏まえてアップデートされたシステム図をもとに、「変化の理論(以下、ToC:Theory of Change)」が定義され、IMMの根幹が構築されます。SIIFICの線形に改変したToCには、企業を取り巻く環境や背景、投資や活動が社会や環境に与える影響を数値などで評価するアウトカム基準(インパクト指標)となる「インパクトKPI」が整理されます。このToCは、どのように変化を生み出すかを計画して、その効果を評価し、関係者にその変化のプロセスを伝えるためのツールであり、組織の活動に応じて更新され続ける“羅針盤”となります。
#投資判断・クロージング
「VCデューデリジェンス」「インパクトデューデリジェンス」の2つを並行して行い、最終的に財務的リターンと社会的リターンの実現可能性の両輪で投資判断が行われます。
#インパクト測定・管理(IMM)
IMMのプロセスにおいて、投資活動や企業運営がどれだけ社会課題解決に貢献したかを評価し、その結果を示すために作成される「Impact Performance Report」というレポートがあります。SIIFICでは、このレポートを成果報告にとどめず、投資家・投資先・関係者が一緒に学ぶための「共同学習のための青写真」と位置づけています。これは、「投資先を評価する道具」から、「投資家・投資先と共に学び、育てるためのツール」への転換を意味しています。背景には、SIIFICが投資家にコミットした育成責任があり、これを果たそうとする態度は、他のベンチャーキャピタルと一線を画すSIIFICの圧倒的当事者意識の表れです。
なお、SIIFICは投資先すべてに対してIMMを実施しており、国内外の原則やガイドラインに基づいて対話を重ねながら、投資先が生み出すインパクトの持続的向上に寄与することを自らに課しています。
なお、インパクト・マネジメント・システムの設計および実装は、インパクト投資の国際原則である「インパクト・マネジメント運用原則」に則って行われ、情報開示文書(Disclosure statement)により公開されています。インパクト・マネジメント運用原則については、該当キーワードを参照ください。